施術の指導を依頼されて

体が一般的な柔らかさならば、
素人でもそれなりにマッサージはできます。


マッサージや施術の一般的な書籍を情報源に
通り一辺倒の回数でもって手を加えればいいでしょう。


たとえば背中をマッサージするときに、
3〜5回ほどマッサージを繰り返して。
それ以上は繰り返さないようにという書き方をしているものもあります。


それにしたがって図解したマッサージ手順を参考にして
幾度か挑戦してみればやり過ぎによる負担リスクもない。


そのような平易な対処で十分なときはパートナー同士で
ペア・マッサージをするようにしたほうがいいでしょう。
経済的ですし、通院する時間と手間が省けます。


ただそのようなマッサージの解説本の通りに施術をしても
不十分な対応しかできないケースもある。


施術をしたとしても「一歩進んでニ歩下がる」のような感じです。
悪化を一時的に遅くする程度のことでしかないことも多いのです。
何時まで経っても体が改善していく曲線が上向かない。
慢性的なものであれば容易に対処しづらいため、
粘り強く対処するのが必須です。
遅々とした改善に不満を感じる。
でも諦めてはなりません。


ただどうも半年以上も対応しているのに思わしくない。


そのようなときこそ、
施術を生業とするものの出番。


ただときどき微妙な会話が成立するときがあります。


とある人に施術の指導を依頼されてしたときのこと。


同業の方です。
施術師をはじめて2年くらい。


「深層筋まで私の施術でリリースします」とうたっている。


お客様に対処できるだけの施術効果を発揮できるようになりたい。
目下はその目標に向けて日々研鑽を積んでおられる様子です。


治療院の場所を借りて月々、固定費として20万弱はかかる。
だけど収支を計算すると頭がいたい時がでてきてしまう。
いつもは個々の先生が自分なりに工夫するのがよろしい、
というのが私のスタンスです。
ですが少しだけ気づいた点をはっきりとお伝えする必要があると感じました。


まずはその方の通常している施術のデモを見学。


私がお伝えするも一から手取り足取りする時間はない。
デモを見学して逐次、気になった部分を指摘させていただく。


そのときに気づいたこと。


まったくリリースが不十分なうちに次の箇所、次の箇所へと移動する。
つまり体の全身対応コースのようなものを120分で受けたとしたら、
テキパキとしていかないと時間的に足が出てしまいます。


だから中層筋も緩んでもいないというのに次の箇所へ。


ちょうどその姿勢が一般の方向けのマッサージのやり過ぎによる負荷が
掛からないようにする方法と同じ程度のことをルーチンでしています。


大変に器用な人なのですが、
深いところを観ていこうとか、
自分なりの工夫を加えていこうとはしていない。


もちろん素人の方がマッサージをするより何倍もの成果はあがると思います。
経絡知識もしっかりしていますし、
トリガーポイントも把握してアプローチ。
苦痛を癒す能力は大したものです。


ただし
「深層筋膜までリリースしてます」と
言葉でデモをしているときのお客様に言葉を掛けているわりには、
はっきり申しまして深層筋はカチカチのままで、
当てた手がはじかれているのがありあり見える。


ですがデモを受けたお客様は
「さすがは深層筋を緩めたもので、すごいですね」
と喜ばれている。


評価が高いので悪い話ではありません。
ですがどうやら気づいた点は、
単純なことです。


「本当に深層筋まで緩められたらどのようになるのか?」
という状態変化を、そのデモを受けたお客様も知らないし、
それにデモをしていた方もはっきりとは認識していなかった。



だからあとで私が「ここ、ぜんぜん解けてないですよ」という
レッドカード・ポイントをいくつもいくつも挙げられると、
かえって反抗的な雰囲気になっていくのです。
「やってられないね」的な。^-^;


仕方なく私が深層筋までアプローチをして緩めていきます。
逐次、対応する筋肉の流れを立体的に読む重要性を概説し、
デモを受けるお客様の体内にどれほどの硬さの問題が潜んでいるかを伝えつつ。


そこでお客様が気づいたのは
「腕ってこんなにブルンブルン楽に回るものなの!?」
とか他にも先程の状態との違いに気づかれたようです。
慢性的なものをぬぐい去るにはここまでしていかねば。


お客様自身がいくらがんばって数十年掛けても対処できない。
そのようなところだったり、
他の施術院にいろいろと通ったが思うにまかせられなかった。
というようなところの終止符を打って差し上げること。


それができれば、
口コミでお客様がお客様をお呼びいただけるようになり
経営を助けてくれることになるでしょう。
遠方よりお客様が訪れていただけるという
涙が出るほど感謝したいことも起きてきます。
そうなれるように、がんばるのも一つの手法。



「一歩進んで二歩下がる」


私に教えてくれと申した彼が気づいたのは、
初めて「これができれば前にすすめる!!」と、
眼が輝いてきました。


目の前におられるお客様をどうにかもっとよくなって欲しいが
慢性的な方へのアプローチが納得できず申し訳ない気持ちでいた。
だから前進できる方法があると気づいたときの喜びは大きいもの。



単純に、施術者の彼自身、
部分的に硬化した筋膜を骨と勘違いしていたし、
硬化した筋膜だと分かっていても時間的に解けないし
時間があっても解けないという思いが強烈に潜在的にある。
そのことの指摘をさせていただきました。


「解けない」と決めてかかれば、
解く工夫をしようと脳は気働きをしなくなる。
だから「私が教えていただいたときには、あなたとは違う」という
視点止まりです。


自分で工夫をして問題を打開しようということは大切な修行です。


そのような職業的に上級なノウハウは書籍等に公開されることもない。
セミナー等でちょっとだけ紹介される程度。


つまり人に教えていただけるということを前提では、
教えていただけない現実を直視すれば問題解決は厳しい。


要は、自分で編み出さねば、
お客様に対応できない仕組みです。


あせらずとも熱心に研究していき、
人体の詳細がわかっていけば誰でもが自分ただ一人の解法が生まれる。
私はそのように考えていますし、
そのような人それぞれの個性的な解法を見聞きするのが大好きです。


教えていただくことが前提を押し通してひとまず学べることはすべて学び、
そこを通り越して自分で工夫をしたくなるまで暖かく見守るべき。
そのような時間の使い方が、私は好きです。


ただしこのたびは私らしくもなく^-^;
「このやり方は、もう一工夫できないの?」とか
「あなたが観ている施術前と後のビジョン変化を言える?」とか
「なぜこの部位がダメージを受けているような浅い視点で観てるの?」とか。
矢継ぎ早に申しました。


理が明らかでなければ、
よい手はうてません。


そして私なりの考え方のヒントとなるものをお伝えして帰ってまいりました。
おそらく私自身も日頃のアイデアを再確認させていただく
良い機会となったものと思います。


施術法を工夫したくなるきっかけづくりになれればいいですよね。^-^)