漢時代の鍼灸の名人:『郭玉』(かくぎょ)

郭玉は大変な鍼灸の名人でした。
後漢書に記された医術者は記されていますが、
鍼灸師が取り上げられているのはめったにない。


そのなかの傑出した一人が郭玉です。


慈しみ深く偉そうにしない。
貧乏で身分の低いものに対しても一生懸命治療をしました。


ですが高貴な身分の人を治すときに、
ときに治らないときがあるという。


そのとき高貴な身分の患者が一計を案じて、
身分の低いもののみなりをして郭玉に治療を頼んだ。
すると一鍼を刺しただけで即座に治ったという。


郭玉和帝が尋ねた。
「なぜ高貴な身分の者を治療して治らないときがあるか?」


すると郭玉は、
「鍼をさすのに毛ほどの狂いがあればダメになってしまいます。」
「高貴な身分の人は高いところから私に臨みます。
私は恐れおののきながらそれに従います。」


すると4つの難点があるといいます。
・患者が自分の我を張って私に見せようとしない(そこが痛いんじゃない!!と訴えたりする)
・自分の身を慎まないこと(暴飲暴食や不摂生)
・身体が強くないので強い薬が使えない
・安逸を好み苦労を嫌うこと
こういった点があるといいます。


「それに刺鍼には深さの決まりがありますが、
ときには突き破るときもあります。


こういったことへ配慮に重ねてびくびくする心があり、
さらに押さえて慎む心が加わったのでは私が意を尽くすことができません。」


といいました。
とても納得です。
高貴な身分のものの難点が、
鍼灸師の郭玉の力を発揮させないようにしている。
当時の高貴な方々の生活様式や人への接し方が伺えます。
やはり難点がある状態ではよい治療ができないでしょう。


現代人でも高貴な身分の御仁のように振る舞われることがあります。
だがそれは郭玉が述べたようによい治療を妨げるものになるのです。
そう考えると郭玉の述べた4つの難点は、
現代人にも教訓として通用するでしょう。
日頃から難点をカバーするように心がけるべきですよね。


高貴な身分のものでも低い身分のものでも『患者は患者』。
でもそう簡単に割り切れるようなものではないのですね。


「医」は「意」のことであり、
意が乱されることがあれば巧みさを発揮できないという。
繊細さ故に心も毛ほども乱されればそれが治療に悪影響を及ぼす。


本当に繊細で奥深い技術ですよね。
今の私には想像もつかない世界がそこに広がっています。