圧の掛け方の多様性

圧の掛け方について。
大変にソフトな圧を掛けることもある。
逆に非常に強い圧を掛けることもある。


適宜、場所や状況により使い分けます。


ただソフトな圧でも強力な圧でも両方とも
「釣り合いがとれた力」を生じさせておくことが大切です。


手で圧を掛けるならば、
「押す力」と「引く力」のふたつの力を同時に常に感じ取り続けること。
言葉でいわれても体の動きが伴わねば意味がわかりづらいと思いますが、
これはとても大切なポイントだと思います。


初心者のときによくおこなう次のようなミスがあるのです。


相手を押せばいいということで、
相手の体めがけギュゥーッと圧を掛ける。
このとき自分の体を支える重心を見失い、
相手の体に支えてもらってしまう。
圧を掛ける方向にだけ力のベクトル線が向いていると、
そちらに自分の中心軸が持っていかれて傾斜してしまうのです。
圧を掛ければ掛けるほど軸は持っていかれ、
体の体表部に筋肉を硬化させた支えを作る。
それに危うく倒れそうになっておれば指先に力が入り抜けない。
それでは繊細な指先の触覚センサーの機能発揮がおぼつかない。
自分の体は糸の切れた凧で風に吹かれて飛ばされるようなもの。
自らの動きを制御できない。
これではうまくないのです。


それに対してこなれた圧を掛ける方は、
常に圧を掛ける方向とそれに相反する方向にも力のベクトル線を描き続ける。
または力の合力でいくつかに分散させたベクトルを描いていくこともある。
そしてこの両者の力のベクトルを少しずつ緩めたり強めたりすることで
自分の中心軸を保持し続けながら圧をかけることができている。
これならば指先は最大限緩められてセンサー機能が発揮できる。
その触覚センサーの情報を元に意図した繊細な圧をかけられる。


5gの圧を掛けるときも、
30Kgの圧を掛けるときも、
このような力の釣り合いを基にしたベクトルを生じさせている。


そうすると5gの圧も30Kgの圧も同様な質として感じられる。
力の釣り合いを意図した量を崩す感覚で、
その量が多いかどう少ないかで質が同じ。


この感覚がわかりだすと、
圧を掛けるための道具を介在させて押すのも安全におこなえるようになる。


たとえば圧の掛け方次第で10Kgもの力を
肋骨や鎖骨や頚椎などの骨折や鞭打ちしやすいところに
圧を掛ければどうなるでしょうか?


初心者の圧の掛け方の場合には
相当に危険な行為となるでしょう。
圧を掛けられた者の体表が瞬時に硬直し抵抗します。
危険な質の圧から自己防衛する反射行動が起きます。
表層筋膜部の皮膚抵抗のブロックがかいくぐれません。


余談ですが、
先だって私が教わった合気柔術の先生も、
力の釣り合いを生かしなさいといっておられました。


実は格闘のときに相手の骨や軸を攻めたりゲットするときに、
この力の釣り合いを生かした圧やタッチを使います。
骨や軸を獲る感覚がつかめると皮膚をタッチするだけで、
骨や軸を獲る感覚も磨けるような気がしています。




私も施術のほうでこの圧の掛け方を理解したわけではなくて、
太極拳の力の発し方の書などを参考にして考え付いたもので。
(私が知る手技療法の専門書にはこのような圧についての解説はなかった)


プロでがんばっておられる先生はそのようなみえないところで
一般の方では想像ができないような使い方を熟練させています。


同じような圧を掛けられているようにみえていても、
その質がずいぶん違うように感じられることもある。
施術の安全性や成果が一般の方とは開きがでる工夫。



その秘密のひとつがこれ以外にも
それぞれの先生方が独自にノウハウを蓄積していることでしょう。