狭く深くという接し方

頭のいい人が儲からない理由』という本を読んでいて面白い内容があった。


著者、坂本桂一氏が30年ほど前の学生時代に
ビジネスをして1000万ほどの損失を出し借金を負った。


そのとき借金返済のために『ちり紙交換』をしたそうなんですよね。


当時はちり紙交換でがんばれば一日に一万数千円が手に入ったという。
それは今では4〜5万円に換算されるだろう。


それほどの利益が得られるのは、
当時はホストかちり紙交換しかなかったそうです。


ちり紙交換の先輩がアドバイスをしてくれた。
「儲けたいならば、コースを3本に絞れ」と。


一見するとちり紙を交換したい人に出会うには
多くのエリアを回っていったほうが良さそうだ。


だがそうではないらしい。


ちり紙交換を車を走らせてしていると、
お客様側がどんな人物がちり紙交換をしているか
わからないと不安だという心理も働くらしい。
もし車を呼び止めたらヤクザのような怖いお兄さんが降りてきたら。
そう考えるとちょっとした一抹の不安がよぎる。
案外、そのような不安を押し殺すのは疲れる。


それがちり紙交換で広いエリアを回らないから、
同じお客様と顔を合わせる頻度が増える。
顔見知りになる。


定期的に知った顔のちり紙交換をする
他のちり紙交換よりも質のよいボックスティッシュ
トイレットペーパーをくれるお兄さんがくるということになると
お客様が筆者がちり紙交換の車を走らせてくるのを待ってくれる。
トイレットペーパーなどをもっとよこせというようなお客がいたら
いわれるまえに気前よくあげてしまう。
そうするとかえってあのちり紙交換さんはいいとファンになってくれる。
そのようなおすすめ情報はクチコミで広がるのだろう。


それはお客様にとってもちり紙交換業をするものにとっても
両方共にしあわせになれただろう。


それに東大生である著者は、
はじめはちり紙交換なんてと職を恥じていたところがあるが
次第に勇気を持って一軒一軒アパートをノックしてまわった。
当時でもそんなノック営業をするちり紙交換はいなかったが、
「自分はノックできるかできないかで、
その差で人生が変わる。自分はノックできる人間になる」
と考えたそうです。



そうすると狭いエリアを定期的に回ることで
午前中に積み込んだ古紙がいっぱいになるから収集所にあけて
午後にまたカラにしてでかけられるよういなっていく。


そうしてひとつのコースを深く掘っていくほうが
利益が増えるということを身を持ってわかったといいます。



広く浅くお客様と付き合うスタイルの営業に向いているものもあるでしょう。
ちり紙交換はそのような多くの地域を流してなんぼのものだと
私なんかは想像していたのですが。
そうではなかったのですね。


ちり紙交換を商うときに、
利益を上げたいならばコースを絞り込めという言葉に
私は、我が身を振り返ってはっとしました。



私どものような施術のお仕事も、
回転率をあげて商売をしようとすればできるわけですが。
ですが狭く深く対応することで信頼関係を築けたほうが
お客様も私どもも幸せになれるのだろうと思います。


そのような経営方針で営業している先生方は息が長いですね。
私の知る中では大儲けをしている人は少ないかもしれません。
ですがなかには「えぇ〜。すごいですなぁ」という人もいる。


私どもは数年で大半の開業者が撤退していく厳しい業界です。


そんななかでも「忙しくてしかたないよ〜」と悲鳴をいつもあげてます。
そして顔を合わせるとお通いいただいているとあるお客様がよくなったと
うれしそうに話しています。


お互いに自慢をしようともくろんでいるわけですが、
それがまたたわいもない楽しい時間でもあるのです。^-^;


お客様の顔と名前が覚えられずにいるようなことはありません。


名前をお聞きするだけで
「あなたはどこそこを、こうアプローチしたんで」
と今までしてきた過程を目を閉じればリアルに思い出せます。


体力と気力の限界に挑むような神経の集中状態を長時間続ける。


そんななかですとプロとしては未熟だからかもしれませんが、
一日のお客様の人数が多ければ記憶がごっちゃになります。
それは私は嫌なんですよね。。。


お客様から話を聞いてリリースするポイントを絞るにも
言葉を交わしてみなければ始まらないことも多いのです。
要領よくお話を聞き出すことも大切ですが、
少し脇道にそれた会話のなかで、
そのお客様がわかりやすい体の使い方を伝えるヒントを頂くこともあります。


広く浅く接して回転率をあげ収益をあげたいといっていた
これから施術院を独立開業しようとしていた友達がいました。
そのときに私は余計なお世話なことですが、
少しだけアドバイスをさせていただきました。


「最初だけでも、経済的に大変かもしれませんが、
狭く深くお客様と関わっていきましょうよ。
そうするほうがお客様の症状を思い浮かべて
毎回の施術で観察の視点を深めてよりよい対応をすることができる。
具体的な症状に直面できて、
時間をかけてそれに取り組めば技術的な勉強になりますから。
お客様にもその姿勢は伝わります」


利益があがるかどうかという視点では、
どういうテコ入れをすれば集客ができて効果があがるかという
成果主義的な見方をすることもできるでしょう。
そのような営業のテクニックは実際にあります。
とりあえずそのようなテクニックを学ぶことは
職業として成り立たせるには必要なことですね。


きっと狭く深くというスタンスと広く浅くというスタンスの
両者のバランス感覚がいい先生が一番安定感があるんだろう。
そう、思います。