グラスファイバーが前後にしなるようにゆれ動けるか?

バレエをしているお客様。
特にトゥシューズをお履きになる方。
トゥシューズを履いて動くノウハウを伝授するクラスを受講した方は幸です。


大人からバレエを始める方のひとにぎりには
「ふとももの前が太くなりやすい」傾向があります。


どのような作用によりふとももを太くする作用が起こるのでしょうか?


ここで簡単な実験をしてみましょう。
立位で体を前後にゆする動きをしてみます。


まず立ってください。
はじめに腰・殿部を後ろへと引きます。
すると楽に20〜30cmほど引けるでしょうか?
その後ろに引ける量はここでは問題ではありません。
楽に後ろに引くことができ、
これ以上後ろにいけない限界までさがると、
前に自然に戻そうとする反射がおきていることに気づいてください。
体のバランスを失う限界ぎりぎりになると
自然に姿勢を元に戻そうとする姿勢反射が起きるのです。
特定の筋肉を意図的に使い前に戻そうとする意思は一切必要ない。
このとき呼吸もさほどつまりもしませんしあまり疲れません。


ではこんどは腰・殿部を前に出すように。
上記と同様な楽に後ろに引けた量だけ前に出るならば問題ない。
その動きは体の中心部分が力みなく流れるように前後に動くでしょう。
呼吸も楽ですし行き過ぎた姿勢の乱れを自動修正する姿勢反射が働く。
どこの筋肉を意図的に使う実感も伴わない。
だから体のコアを前後にいくらゆすってみても疲れないし、
両足底の中間点と頭部の位置がほぼ一致した状態が維持できる。


だが腰・殿部を前に出す動きをしてみると、
後ろに引いたとき30cmほど引けた人が、
たった5cm程度しか前に出せなかったりする。
前に出すとき強い抵抗を感じるときがあります。


前に出す動作をするとき、
前に出して自動修正をしてくれる姿勢反射作用を利用せずに、
骨盤が前に出る動作をストップさせているのです。
本人は無意識にストップさせている。
骨盤が前に行くときに重心が乱れるだろうと予測して備える。
鼠径部の鼠径靱帯に大腰筋をしこり化させて溜めていたり、
股関節のはまり具合が浅かったり、
仙腸関節の動きがよくなかったり、
恥骨の左右がずれていたり、
すでにふともも前が太かったりなどのとき。
それらのときは特に骨盤を前に出すと不快で不安定になる。
または以前にそのような違和感を感じていた方々も陥りやすい。


不快な状態にいくことを避けようという無意識に考え対処する。
それにより骨盤が前に十分に出る前に
腸骨筋と大腿直筋や外側広筋を緊張させていることが観察できる。


つまり骨盤の内側の筋肉とふとももの前の筋肉で、
前にいかないよう強烈なブレーキをかけてしまっているのです。
急ブレーキをかけたときは体が緊張して呼吸が一瞬止まります。
前後に腰・殿部をゆする動作はぎこちなくなります。



前に出そうとアクセルを踏み、
前に出すまいとブレーキを踏む状態ほど
筋・腱・靭帯を痛める動作はないのです。


肉体に残るダメージは筋肉疲労にとどまらず、
前にだすとき骨盤底筋が萎縮して外性器部分が緊張してしまい、
この動きを繰り返せば恥骨部周辺の骨盤底筋の張り方が乱れる。
骨盤底筋をゆるめ会陰部の感覚を鋭敏にして得られる姿勢の安定が失われる。



・・・のような感じのことが体の内側で起きていると思われます。


施術中に私がダンスをしている一部のお客様に
『硬直して立たせるのではなく
グラスファイバーが前後にしなるように立てればよいのでは?』
と説明したときがあります。
そのグラスファイバーのしなりは
姿勢修正反射という腱や靭帯で無意識かつ効率的に姿勢を修正する作用を
最大限に引き出してくださいね、という意図といいますか祈りがあります。


腰・殿部を前に出すときのブレーキに対処できれば、
太ももの太さがちょっとずつ改善方向へ変化しちゃうかもしれない。
(ブレーキをゆるめてみたらどうなりますか?)
(どうしたらブレーキをゆるめられるでしょうか?)
など工夫をしていけば姿勢反射を自在に取り出せるようになれます。


アラベスクのような不安定な姿勢ではその応用を試みるとよいでしょう。
どのようにすれば姿勢反射を引き出せるか幾通りのパターンを考案し、
試行錯誤してみましょう。
その上でお手持ちの優れたダンサーのアラベスク動画を観察すれば、
今まで見ていて気づきにくかったところが、
「なるほどねっ!」と思えるところがあるかもしれません。


ちなみにこの修正方法は
書籍『フェルデンクライス身体訓練法』の
P104「平衡の力学」◇立ったままからだをゆらせる
で、
シンプルに紹介されています。
関心がある方はこちらも参考にご覧ください。