去年の暮れ、
近所のご年配の女性がお亡くなりになられました。
数年前よりその方は一人暮らし。
猫だけが、
子供のような存在でした。
生前は毎夜路地端に立ち、
猫のパトロールの姿をずっと微笑み見ていました。
東急病院に癌の痛みを抑えるため強い薬物を投与されているときに、
『ちび(猫の名前)。おぉ、来たかぁ。』
という幻覚を見ておられました。
苦しさのなかで遠い縁にあたる親類よりも、
愛情を日頃注いでいた猫に会いたかったのでしょう。
そしておばあ様がお亡くなりになり、
既にその家は空き家です。
遠い縁にあたる親類の方々が相続人。
その家を売却するために相続手続きに奔走しておられるそうです。
母は、その猫のことを気にかけてずっと猫の世話をしています。
縁あって知り合えたおばあさまの唯一の心残り。
私はてっきりその猫は家を相続される親類が
引き取られるものと思っていました。
猫も家財同様に大切な遺産だと思っていました。
残念なことにそうはなりませんでした。
母がおばあさまが生前に猫のえさを購入して
それを毎日えさ入れに入れてあげていたり、
外の決まったところでふんをするところがあり、
そこを掃除をしにいっていました。
数人の相続人がいるので、
きっとそのうち猫を引き取るのだろうと信じていました。
ですがえさが尽きて相続人のひとりにそのことを告げたとき。
「もうえさはあげないでください。
あげなければ近所の南公園へでもいくでしょう」
その言葉が返ってきたそうです。
私はその場にはいなかったのですが、
母はかなりショックを受けていました。
きっとその家のご事情があることでしょう。
おばあさまはずっと親類の方々の影になり
ことあると支えてきたそうです。
そのおばあさまにとってこの猫が生きがいだったし、
愛情を注ぎ込んで最後まで心配していた大切な子供。
母にはその子をないがしろにするという発想をもてませんでした。
間違いなくおばあさまは今も猫のことが気がかりでおられるでしょう。
今も母は自腹で猫のえさを買い、
使い捨てカイロをタオルでくるんで猫の部屋を暖めています。
猫は家に着くといいますから離れたくないのでしょう。
一軒家に猫が一匹だけいる家。
不思議な空間ですが、
近い将来その家もなくなります。
複雑な思いです。