舌診で忘れられないこと
私は、筋膜リリース中心で施術をさせていただいていた関係で、
身体がもっと動かせるようになりたい方々が半数以上だったころ。
手持ちの手技療法の本には東洋医学系のものもありましたが、
多くはオステオパシーや理学療法士の先生が読むような本が多く、
経絡のアプローチと言ってもボウエンテクニックを少々程度です。
男性のお客様が、大病を患われました。
私が当時、手技のツールとして砭石を取り入れたころです。
東洋医学について学びを深めて砭石を使いこなせるように、
そう思っていた矢先のことです。
当時はまだ四診の専門書といっても、
(入門 目で見る臨床中医診断学)や(わかりやすい臨床中医診断学)など
浅く広く中医学の診断法を解説している本を観ていたところでした。
書中の絵やイラストは理解の助けになりますが、
臨床でつかえる実感が持てないという感触です。
本に書かれている意味が、初学者過ぎたため、
文章を読み進めてもぴんときてないんですね。
そのときにお客様から黒苔ができてしまったと、
たしかメールで報告を受けたのです。
それでも施術を受けてよいかと聞かれ、
主治医と相談していただいて良ければという返答をいたしました。
お客様はいつも率直なものの考えをしている人で、
施術中にさまざま言葉を交わすこともあったため、
私としては微力でしかありませんが尽くせることがあればと思い、
それから自分にできそうなことを考えた記憶があります。
当時の私がしておりました深層筋をリリースするようなことをしては、
病院での治療で消耗されたお体に負担がかかると思い、
私が当時勉強しだした砭石温熱器での経絡へのアプローチにより、
緩和ケアに近しいことのみで不用意な負担をあたえないこととしました。
会話の中でしてほしいこと、させていただけそうなことを探りました。
ただ当時の私には黒苔の意味を十分理解できていないため
他の先生で適切なことをしていただける人を見つけようと、
知り合いにいくつか打診をした記憶があります。
一度だけとなりましたが、
私が脈診講座を受けた鍼灸師の先生のところにも、
みていただけないかとお連れした記憶があります。
それからコロナ禍となってからまた入院なされて、
心配いたしましたが連絡がとれないままとなりました。
それから1年後、私がお客様に貸していた砭石温熱器が送られてきて、
届いたことのメールをさせていただいたところ、
奥様から他界なされたことを伝えていただきました。
それからまもなくのこと、お焼香にいかせていただきました。
ずっとそのお客様の黒苔が気になっていて調べれば調べるほどに、
苦しい思いが続いていたため、すでに火葬されてお宅におられる姿をみて、
その場では声をつまらせるだけでこらえましたが。
自分にはなにもしてさしあげられなかった後悔と不甲斐なさから、
井の頭公園のほうに向かって歩いて帰る途中には、
意識が朦朧としていたことを思い出します。
薬膳の勉強をすると、
問診及び舌診は必須テクニックのひとつとして使われます。
それから舌診のテキストで舌に黒い苔がつく黒苔を診ると、
彼の明るかった顔を思い出すんですよね。
するといまもごめんなさいと口からでてきます。
筋膜リリースでは、そんなこと期待してお客様が来てるわけないやろと
突っ込まれそうですが。
いい人だったんで、個人的に、どうにかして差し上げたかったので。
いつか自分なりに未病のうちに黒苔を食い止める方法がわかったら、
自分勝手な思いでしかありませんが、
病状の彼になにをいっていいかわからず、不安ばかりだったときが、
ようやく終わりそうです。
舌診は望診のなかのひとつとして、こころづよい診断法の技術です。
舌診で得た弁証は、どちらへ向かうべきかを決める羅針盤のようなもの。
その羅針盤の精度が上がるよう改めてテキストを読み返そうと思っています。
余談ですが。
昨日、ブログに書いた私の舌診で得た弁証部分について。
「単なる陽虚じゃなくてけっこう複雑なようですね」と、
知人より<大変だな君!>というメールが届きました。
陽虚に陰虚がどの程度割合で混じっていると
読み解かれたのでしょう。
さすがです。
大建中湯で脾を良くする計画は変わりませんが、
それをどういう期間でとか微修正をするのも手探りです。
まじめに勉強した分だけ安心して進むことができるので、
勉強が捗りますね。