大腿骨にある幻の骨

体について「傾斜がある」状態ですが、
私どものような施術をしているものは
それを目の敵のように表現するものです。


そこが反っているとか、まがっているとかなにかとネガティブなイメージで語りやすい。


ちっとも安定していなくてグラグラしている状態は危なっかしくて仕方ないとか。


ただガウディの建築物を観ていて癒されたり、
ピサの斜塔にあれほど人が引きつけられるのはなぜでしょうか?


人は中心軸が揃っている安定している状態に居心地の良さを感じますが、
同時にずれやゆがみを感じることで
中心軸の様子をよりはっきりと認識するきっかけにもなるそうです。


ピサの斜塔の傾斜している状態を見つめては、
そこから動的な動きをイメージ。


斜めになっているモノを観ていて、
自らの中心軸を確認して真っ直ぐにしようと修正をかける。
そのような影響が人体に起きることがあるそうなのです。


まっすぐにそびえ立つ垂直線のままの塔を仰ぎ見るなら
動的なイメージは感じ得ないでしょう。
静的な安定をイメージさせるからです。


同様に人間が立っているときは、
体を傾けるのも楽なものです。
傾斜させれば動的な動きが生まれ、
歪みからも動きが絶えず生まれています。


対して横たわった状態では落下することはなく安定しているでしょう。


人体を不安定にさせることで動的な仕事をさせやすくする。
人体を安定させることで静的な休息を取りやすくさせる。


この二つが大切なんです。




ただここで不安定にさせることのなかで、
目に見えない安定をさせるための仕組みがこっそり仕込まれているのです。
そこに眼を凝らさしておきたいところです。


そのひとつを象徴としてとりあげれば、
「大腿骨」でしょう。


骨盤を含む脚部全体の解剖図をみないとイメージしづらいでしょう。
もしそのような解剖学の本を持っていたら参考にして聞いてください。


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立つときには足首付近にあります「距骨」の上に
「脛骨」が釣り合いをとりながら立ち上る感じです。
合理的な理想姿勢で立てた状態ならば、
脛骨はほぼ重力線に沿った立ち上がりです。
そして脛骨の上端が「膝」です。
「膝」から上が大腿骨です。


こちらの大腿骨を観察すると、
理想的な姿勢で立っているにも関わらず、
重力線に沿わない様子が観察されます。
つまり膝から上に登るに連れ重力線から外側にそれている。
それにより不安定な状態で大腿骨は胴体以上を支えている。
ピサの斜塔のように斜めになっている。
だけどしっかりと安定した状態で支えられてしまうのです。


それはなぜか?


それは大腿骨の形状に秘密があります。
大腿骨の膝に接する部分から大転子まではほぼまっすぐです。
そこから曲ります。
大転子から大腿骨頭へ。
L字に曲がったクランク状のなんです。
実はこのL字に曲がる強度の強い骨は、
大腿骨の膝に接する部分から大腿骨頭へと目に見えないが、
力学的な2点間を結ぶラインが引いてある。


そちらのラインは重力線に沿っていて、
脛骨の重力線の延長線上に位置させることもできるだろう。
この位置に足の骨が並ぶときに、
踵の距骨→脛骨→『見えない大腿骨の膝に接する部分から大腿骨頭の幻の骨(※以下 ”幻の骨”と略)』が
縦に一直線に並び骨盤をしっかり安定させた状態で下支えをしてくれる。


この一直線に立ち上る脚部のラインをみつけることができれば、
骨盤を強力な骨のラインで支えられていることに気づくでしょう。
そうならばその幻の骨を含めて使って立てればいいわけです。


そしてこの幻の骨を考慮しないとどうなるか。


ひとつは。
初歩的なところは
大転子から膝頭の斜め外側にある大腿骨の外側のラインの骨部分にそった
大腿筋膜張筋や腸脛靭帯などのふとももの外側の筋肉部分に力みが入る。
そうなるとふとももの外側がもっこりと筋肉が太りだして盛り上がるし
しこりになってしまう。


ふたつは。
エクササイズをならっておられる方が多いのですが、
内転筋を使うのが大切だということを聞いていたから
この内転筋を過剰なまで使ってしまおうとする。
過ぎたるは及ばざるが如しですから、
ちょうどよいところを見計らう調整が大切です。
不要な筋緊張は繊細な動きの精度を欠かせる。
疲労を蓄積させてしまいやすい。


ではなぜ大腿骨は大転子の曲がった部分があるのだろうか?


推測するに
単純なところでは大腿骨の大転子以下が傾斜しているため倒れこみやすい。
はじめから倒れこみやすく作ってあるから、
そのため動き出しがスムースにできる。
左右のどちらかの足に軸を据えれば、
そちらを容易に傾斜させてしまうこともでき、
素早い体の重みを活かした移動ができる。


人間の骨盤とは人間が二足歩行をした経緯により、
骨盤形状は他の四足や類人猿等の諸動物とは異なる。
骨盤と大腿骨をジョイントさせるときの角度は
人間の固有のL字角度があるのだろう。



また大腿骨に幻の骨を含めた三角形ができると
大転子部分をねじるようにして大腿骨を動かせる。
すると強力な万力のごときトルクが掛かることがわかる。
単なるまっすぐな細い骨を回転させるよりも力強いのです。
もし幻の骨といった部分に骨があったとすれば、
単純に上にある胴体以上を支えるだけならば十分です。
ただ歩いたり走ったりという運動するにはこのトルクが必須です。
それに中心軸を軸にした骨盤の回転運動をもとにスムースな足運びをするとき、
この大転子のトルクが非常によく効くように思います。


L字になっている骨は広く観れば恥骨部や鎖骨部、
それに上腕骨や大腿骨などがあるだろう。
クランク状にしてあるととにかく器用な動作がかなえられる。
人間の自在な動きを作り出すのはこのクランクが
深く貢献していることを、よ〜く観察すると思い知らされる。


わざわざ大腿骨を斜めに傾斜させて存在させるなんかは、
ほんとうにメカニズムとして心憎い。