症状が出る前の未病を四診法で診た名医のこと

扁鵲(へんじゃく)
紀元前5世紀初頭から前4世紀にかけて活躍した戦国時代屈指の名医。


司馬遷は、扁鵲を脈学の祖と述べています。


こちらの名医、扁鵲。
内科、外科、婦人科、小児科、五官器の病などに精通し、
砭石(へんせき)」、「湯液」、「鍼灸」、「按摩」の諸方を縦横無尽に駆使したそうです。


砭石というと、昨日、私はベン石のマッサージグッズを注文しました。
その使い手ですね。
こちらの名医、扁鵲は。
どのような使い方をなさったのでしょう。
興味あります。


湯液は、漢方薬を煎じて煮だし服用する。


鍼灸・按摩は、みなさまも御存知の通り、
鍼やお灸、そしてマッサージのことです。


それらの治療を支えたのが中医学の検査法の四診法(望、聞、問、切)の体得。
これらでの検査精度が高く、それにより疾病を正確に分別できたからです。


扁鵲が戦国時代斉の国の桓公に謁見した。
そのときのエピソードが興味深いのです。




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扁鵲が桓公にいう。
「上様は病気を患っていまして、肌の下にまで来て止まっています。
今治療をしないと、もっと深く入り込んでしまいましょう」


すると桓公は、
「私は病気ではありません」


そして扁鵲が退出したあとに、あたりのものに、
「扁鵲は利益を求めようとして、病気でもないものを病気だと騙して、功を立てようとするではないか。」
といいました。


5日後、扁鵲は再び謁見していった。
「上様の病気は血脈に止まっています。今治療をなさらないと、さらに病は深く入り込みましょう」


だが桓公は、
「私は病気ではない」という。
桓公は、不快な気持ちになっていた。


5日後に扁鵲は、3度めの謁見をして申した。
「上様の病気は腸胃の間にあります。今治療なさらなければ、さらに病は深く入り込みましょう」


すると桓公は返事もしない。
扁鵲が退出するとますます不快の面持ち。


そして5日後に扁鵲は、また謁見したが、今度は桓公を拝謁しただけで何も言わずに走り去る。


不思議に思って人を使いその理由を尋ねさせると、こういった。


「病気が肌理(きめ)にあるうちは鍼や石針でも治せます。
腸胃にあるうちは酒で煎じた薬でも治せます。
しかし骨髄まで侵襲されると、人の生死を主る司命の星のなすがままになり、
もはや治せるものではございません。
上様の病気はこの骨髄にあるのですから、
私にはもはや何も申し上げることはないのです」


その後に桓公は、様々な症状が噴出して、シビアな状態に陥ってしまう。
そして扁鵲を求めたがすでに彼は逃げ去っていた。
それから幾ばくもなく桓公は死んでしまった。


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なるほど。


病気が肌理にあるときは、鍼灸や石針(ベン石か?)で治せる。
病気が腸胃にあるときは、煎じ薬とされる漢方薬で治せる。
病気が骨髄にあるときは、もはや治す手立てがない。


ということなのですね。


患者の状態・つまり証を読めれば、
「どういう状態のときは、このような手立てで治せる」という、
セオリーが語られている。


肌理から腸胃に至り、それから骨髄にまで。
病が深く入り込む様子が順序立てられており、
体表から臓腑へ至り、骨に入り込む様子がわかりやすい。


確かに体表近くの部分が体液流動が悪化した程度ならば、
対処も容易にできるという実感は、私にもある。


それが五臓六腑に対して進んだ問題はリリースが困難だ。
もちろん消化器や循環器、呼吸器や泌尿器、免疫系など
該当する臓器自体を休んでも取りきれないほど酷使させ、
変質させてしまうこともあるでしょう。
それだけでなく大腰筋という腹部奥の筋肉が硬化したり、
腹直筋や腹斜筋、腹横筋が固まりすぎて内臓を硬化させ、
また腹腔自体が骨盤の前傾等問題が起こる状態から狭小化したり。


内臓のリリースでは内臓マニピュレーションなどを使い対処するが、
硬化や劣化が進みすぎれば、テキスト通りでは歯がたたないのです。
私がさらに内臓マニピュレーションに精通すればいいのでしょうが、
テキスト等では限界があるため、自作のリリース法にて対処します。
ただ肌理(骨格筋)が柔軟になっていなければ、
内臓マニピュレーションを先行させるのは危険。
その理由は
内臓の緩みは持続できませんし、
内臓のみをリリースしてしまい、
関連する骨格筋が硬化著しいと、
骨格筋が内臓を牽引してずらす。
異常な緊張を強いて内臓内の働きを抑制していく。


そのようなときには、
漢方薬で、骨格筋も内臓部分も同時に狙えばいい。


う〜ん、なるほど。


そういった手があるのか。


とにかく内臓にまで病が至ったときには漢方薬で。
そんな考えで対処していた扁鵲という名医がいた。


実に示唆に富むアプローチです。

興味深い。



桓公の体の中に病が潜伏していたとしても、
四診法に精通した扁鵲にはわかったのだが、
桓公には症状が出ていないため
扁鵲の言葉を信じられなかった。


そして、病を治す時期を逸した。


確かに(望、聞、問、切)の四診法に精通したものは、
不思議なほど現状の体内の状態を把握することができ、
そして将来の起こりうることを予測することができる。


私には、今までの自分が培ってきた臨床上の見立てで、
おおよそのことを推し量るようにしているのです。


四診法には、まだ精通しているとは言いがたいのです。
漢方や生薬の利用を考えるには力を養成せねばと思う。 


私の志向する方向では、
ゼがひにでもほしい能力です。
だから資料を徹底的に集めています。


ただしそれだけでは、依然、要領がつかめていません。
どこかで四診法の名医の集中力を体験してみたいです。



扁鵲。


それにしてもこの世にはすごい見立てができる人物がいたものですね。


現時点で現れている病状を診るのではなく
現時点で現れていない証を診るのがいいと